万鳥林

(前々回の続き)


ところでアルパカセーターズではギターとマンドリンを主に演奏している私ですが、今のマンドリンとは出会ってかれこれ5年くらいになります。某楽器店で売られていた、いや、売られそうになっていた(調整中だった)のを救出したのです。いくらで売るのか訊くと、信じられないような値段を告げられました。野暮になるので値段は発表しませんが、だいたいマンドリン弦3セット分ほどの値段でした。私はそのずっと前から、当時よく行っていた骨董市でいくつかのマンドリンを手に取り弾いてきたので、そのマンドリンポンコツじゃないことはすぐにわかりました。鈴木バイオリンの1967年製。ワン・オブ・世の中にうじゃうじゃあるマンドリンだとも言えるかもしれませんが、とてもよい音がしたのです。
そのマンドリンは、いただき物の派手で古い(よく言えばアンティーク)テニスラケット入れに入れられ、駅の改札にガンガンぶつかったりしながらアルパカセーターズとともに歩みを共にしてきました。持ち主がテニスにでかける奴だと思われたり、子どもにヘッドをかじられ歯形がついたりしても、ジッと耐えてきてくれました。

ちなみにそのマンドリンが初めてわが家にやってきた時につくった曲が、アルパカセーターズのクラシック「おけさカメラのテーマ」です。といってもこの時はまだテーマのみで、ほかのパートは西塔氏と一緒につくりました。

マンドリンを弾く上で参考にしたのは、まずチープスーツのアラン・ドッジ、ジェスロ・バーンズ、シックス・アンド・セブンエイツのビル・クレピンガー、ヤンク・レイチェル、その他ストリングバンドやブルーグラスのグループの方たちといった北米のマンドリニストたちでした。彼らはフラットマンドリンを使っているでしょうが、私はラウンドバック、いわゆるナポリ型で彼らの演奏のエッセンスを探ってみました。しかしギターにしても同様ですが、ラグやカントリーブルースだったり、この辺りのオールドタイミーな音楽を今演奏するのはどういうことかというのは、避けては通れない命題のようなものです。愛すべき、とても魅力的な音楽には間違いありませんが、自分でそっくり同じように演奏するということには気持ちの悪さを感じてしまいます。なのでアルパカセーターズではオリジナル曲のみで、カバーなどはやりませんでした。まあ、やろうと思ってもできないと思いますが。


それはひとまず置いておいて、そしてデイブ・アポロン。彼はロシア人ですが、後期の録音ではアメリカのスタンダード曲の演奏が多く、はじめは手数の多さが気になりましたが、やはり「ビギン・ザ・ビギン」など名演多数で素晴らしい演奏家です。マンドリンが堪能できる録音物はそれほど多いとは言えないと思います。そのせいもあり、バラライカやドムラ、ブズーキといったプレクトラム楽器全般に触手が伸びていくのは自然なことでしょう。

しかし録音物は少ないものの、小さなマンドリンアンサンブルのグループはずいぶんたくさん点在しており、私も都合さえ合えば聴きにでかけるようになりました。
いろんなグループがありますが、 去年聴きに行ったあるグループは、シンプルな編成ながらとても大きな広がりを感じる音楽を奏でていました。重なり合うトレモロはまさに鳥のさえずり、ゆれる木の葉、ナルホド、まさしくこれは「万鳥林(まんどりん)」だ!と思いました。これはおおげさでなく本当にそう思ったのです。


続く