Spentのこと

Spentというバンドを初めて知ったのは、僕が高校3年生のときだ。
中古CD屋さんでたまたま手に取ったコンピレーションCDに、Spentは1曲だけ参加していた。そのコンピはBa Da Bing!recordsというニュージャージーのインディーレーベルのCDで、15組のバンドが参加しているなかで当時知っていたのはHoliday FlyerとFuckとBardo Pondくらいだった(ほかのバンドは今もよく知らない)。それらのバンドと、あとはジャケットの雰囲気なんかが気になって買ったんだったと思う。
コンピ自体はちょっと暗い曲が多くてそんなには好きじゃなかったけど、そのなかの忘れもしない4曲目、Spentの“Unwrapped,Ungiven”という曲に、僕はなんともいえない気持ちにさせられた。歌詞が書いていないから、どんなことを歌っているのかはよくわからない。でも音でなんとなくわかる気がする。聴くたびにいつも目を閉じて聴いていた。そしてなによりもボーカルのアニー・ヘイデンのはかなげな歌声だった。どんな人で、どんな町に住んでいて、どんな風に暮らしているのか。いろんなことを想像した。Sonic YouthとかSuperchunkみたいに男のメンバーのなかに女ひとりだから夫婦でやってるのかなー、とか。
とにかくアルバムを聴いてみたかった。でもレコード屋さんに行くたびに探しても音源はちっとも見つからなくて、僕はその一曲だけを聴き続けていた。それだけが僕の知っているSpentのすべてだったのだ。
そうなってくるとやはり歌詞が知りたくなってくる。でも聴き取るにはちょっとむずかしくて、どうしようかと考えてひらめいた。手紙を書いて歌詞を送ってもらえないだろうか? いや、もういっそ、いっそのこと歌詞はいいから、あなたたちの音楽が好きですよ、とだけでも伝えたかった。そう思いついてさっそく書き出すことにした。ニュージャージージャージーシティ宛。でも英語で伝えたいことを文章にするのはむずかしくて、いろいろ悪戦苦闘した末に結局やめてしまった。汚い字やふにゃふにゃの文章が情けなくなったんだろう。
そのかわり自分で日本語の歌詞をつけて歌ってみたりした。夜な夜な家族に聞こえないようにボソボソと歌う歌声は、なんともへたくそで死にかけの蚊が飛んでるみたいな声だった。(続く)