続・Spentのこと

それから1年くらい後、ベアーズで観たいライブがあって夜行バスに乗って大阪へ行き、そのライブのほかは無計画だったので結局野宿で正味三日ほど滞在した。着いたその日は少し雨が降って、僕は街なかをウロウロ歩きまわったあと、一軒のレコード屋さんに入った。そこは「○か×」という今はなくなってしまったお店で、しばらく店内のレコードやCDを見ていたとき、ついに見つけてしまった。SpentのCDだ。もうそれだけでいいや、と思ってすぐにレジへ。すると店長さんがいろいろ話しかけてくれて、僕もあれこれ話してアルケミーのお店や素泊まり宿の場所なんかも教えてくれた。雨が降っていたので、店長さんはリュックひとつで手ぶらの僕に傘をくれた。

その後に濃ゆいことがずいぶんあったのだけどそれはひとまず置いておく。そして大阪でさんざん歩きまわって足が棒みたいになっているのに、夜行で東京に戻ってからもほうぼう歩いてまわって帰り、へとへとで家に着いた時にはゾンビみたいになっていた。ズボンを脱いだら太ももからひざにかけて足が真っ青になっていて、変な病気になったかとおどろいた。おそるおそる肌をさわると指に青い色がついた。なんてことはない、新しいジーパンを履いていったから、色落ちしていただけだった。

そんな風にして手に入れわくわくして聴いたSpentのCDだったけど、アルバムを通して聴くことはほんの数回だった。いい曲はあったけど、初めて聴いたあの曲(unwrapped,ungiven)のような特別な感触はなくて、どっちかというとあの曲のほうがSpentのなかでは異色なほうだったのかもしれないなと思った。でも1曲、 “stumble up the stairs”という曲は繰り返し聴いて気に入っていた。
そういえば当時地元のFM局で選曲がおもしろいからよく聴いていたラジオ番組があって、ある日の夜いきなりその曲がかかった時はびっくりして、この町に僕のほかにもSpent好きな人がいるんだなあ、と思いなんともうれしかったのを覚えている。そんな思い出たちのせいか、あらためて今ひさしぶりに聴いてみるSpentの音はかむかむレモンみたいにあまずっぱい。

たとえ今はあまり聴くことがなくなってしまっていても、はたち前頃に好きだった音楽にはそれぞれミョーにたくさんのエピソードがつまっている。今みたいにしょっちゅうレコードを買ったりできなかったから、今よりもっと大切に聴いていたんだと思う。
だからこれから出会う音楽も、そんな気持ちを忘れず大切に聴いていけたらいいなと思う夏至の夜だったのであります。
(おわり)